涼しくなってから散歩、本当に楽しい。
みんなもやった方がいいよ。
今週見たもの読んだもの
遠い山なみの光
原作未読で映画を見たけれどもいい作品だった。コンクラーベとも違った意味で”豊かな映像”で、映画らしい映画を観たな、という実感があった。
2025年の邦画を問われた時、自信を持ってこの作品だとジオは言いますね。
1980年、作家を目指すライターの主人公ニキは、戦後間もない長崎から渡英してきた母悦子に、当時動乱の長崎の暮らしをインタビューする。悦子は最初ためらっていたが、当時の様子を話し始める。それは悦子とシングルマザーの佐知子とその娘の真理子と知り合ってからの話だった……
ヒューマンミステリと銘打たれるように、この作品は『信頼できない語り手』の物語だった。登場人物が最初言っていた行動が途中から矛盾したり、現実的ではないような行動をしていたりと段々悦子の話は錯綜していくが、とあるシーンでその答えが急速に一つにまとまっていくところが面白かったですね*1。
物語は錯綜していくが、ある答えを持つことで一つにまとまっていくミステリらしい形式は、過去(悦子)と現在(ニキ)、嘘と真実、戦前と戦後など、映像に多義性があって良かった。わかりやすさや映像美を目的の映画にはない重層さがあって、映画らしい映画を観たな、豊かな映像を見れたな、という実感があった。
今になって思えば、「関心領域」なみにコントラストの強い色彩をした長崎の回想シーンは、単に回想であるという説明以上に、悦子が語った嘘であるという意味合いも強いかもしれない、とも感じた。
映画だけで観るとニキの行動に謎な部分が多かったが、原作を読んで消化したい。
考幻学入門
とても良いマンガだったのでここにて共有、面白かったです。りつ最高!
青騎士にて掲載された作品をまとめた短編集。発売前から気になっていたが、最寄りの本屋では中々見つからず、都会のジュンク堂にまで出向いて買った。
特に、友情の独占欲とそれが永続しない愚かさを描いた「全てが劣化する」と、家でした水泳少女と煙草を吸うお姉さんがドライブに行く「息継ぎの正しいタイミング」、叔父の遺品の水石を引き取る「叔父のいし」がよかったですね。
この良さはあとがきで書かれていたのでそのまま引用するが、
「鈴木りつの作風の大きな特徴として、「想像上のものへの自覚的なまなざし」がよく挙げられます。それは、仲が良い女の子を相手にひとり相撲をする少女であったり、死んでしまった叔父の共感とも感傷ともつかない感情の表明であったりという形で語られます。」
この「自覚的なまなざし」によって立ち止まった視点の作品が多いが、思索によって物語を進めているからこそ感じられる、空間の広がりが自分は好きでしたね。これは自分だけの感覚なのかもしれないが、いい批評やエッセイと読んでいると、自分はそこに空間が広がっているように感じるんよね。それは回答をいくつも持てる自由さだったり、仮定をおくことで答えを広げられる自由さだったり、そういったものをこの漫画にも読み取れて良かった。
作者FANBOXで各話解説も良かったので、既読の人はぜひ。
今週の感想
行方不明展
行きました。とにかく人が多くて凄かった。自分が行方不明になっちゃいそうでした笑
失くなった人の遺留品や手紙、映像、音声が展示されている。
曖昧になった昔の記憶へのノスタルジーだったり、静寂な場所への願望ったり、実在しない存在への固執だったりが展示されていた。リミナルスペースやきさらぎ駅を現実世界に落とし込もうとしていたのを感じました。
展示全体への傾向として、不和や不穏に自分から同和することで自分の抱える不安を消し去りたい欲望が出ていたように感じた。
そういえば現実でも、現実でも似たようなシチュエーションが発生したらしい。
自分はこのニュースを見てすぐにこの展示を見たので、並々ならぬ迫力があった。現実でも何処かに消え去りたい願望は逃避行として発言するのではなく、自分の記憶の消去として現れることもある。この事件があることで行方不明展へのリアリティを押し上げられていて、自分もこの状況を傍観してはいられないなと思わされた。
もし、この世界の向う側があるとするのなら、それは安寧なのでしょうか……